入試直前期のある日、中学3年生のAくんが本棚から古典の参考書を手に取り、ノートに古文作品の作者や時代、ジャンルを表にまとめていました。
「宿題?」と声をかけると、彼は首を振りました。
「入試に出るかなって。授業で全然やってないし……」
Aくんが第一志望の公立にも、併願の私立にも古典文学史の出題はありません。
私は「過去問に文学史は出てこなかったよね。だから授業では扱っていないんだよ」と伝え、いったん手を止めてもらいました。
このやり取りは、指導者が傾向を把握していても、生徒側は「やっていない領域=不安」と捉え、直前期の貴重な時間を非効率な学習に割いてしまう現実を示しています。
この「不安」を解消し、生徒が自信を持って「やるべきこと」に集中するために必要なのは、指導者と生徒の「共通言語」としての客観的なデータ、すなわち「入試の全体像」を共有することです。
■ 【データ】千葉県公立入試「数学」の基本スペック(2025年度)
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平均点: 52.0点(5教科中3位)
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試験時間: 50分
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大問構成:
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大問1:小問集合(配点51点)★重要
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大問2:関数(配点15点)
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大問3:平面図形(配点16点)
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大問4:空間図形・思考力(配点18点)
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※平均点は県教委発表の合格者平均点に基づく。
📊 出題単元を“見える化”する
そこで私は、過去14年間(2012~2025年)の千葉県入試「数学」を徹底的に分析し、「出題単元の可視化」に着手しました。
千葉県の数学は2021年に試験形式が一本化され、出題傾向が大きく変化しました。変化後の直近4年間では、出題単元がわずか33単元(※分類によります)に集中しているのは事実です。
しかし、データが示す真に重要な事実は、「どの単元が出るか」よりも「その単元が“どのように”問われるか」です。千葉県の入試問題には、明確な「型(パターン)」が存在します。
🔑 【分析】千葉県「数学」の出題傾向と平均点推移:14年分のデータが示す“型”
千葉県の数学は2021年に入試が一本化され、以降の出題傾向が大きく変化しました。
2022年以降は、大問4題構成が定着しています。
🔹 大問1(配点51点):基礎知識と計算の“土台”は高正答率
ここは全受験生の得点源です。しかし、単なる計算問題ではありません。
- 定型問題の宝庫:正負の数、文字式、平方根、二次方程式(解の公式)といった計算問題に加え、「作図」「確率」「資料の活用(箱ひげ図や四分位数)」「空間図形の基礎(最短距離や体積)」といった大問2の小問集合で頻出だったテーマが凝縮されています。
- 対策:ここの失点は命取りです。計算の正確性とスピードはもちろん、「作図」の応用パターン(例: 90 や 30 の作図、円の接線)や、「確率」の確実な数え上げを徹底的に反復します。
🔹 大問2:関数 と図形の“戦場”
ここは「関数」という名の「座標幾何」問題です。
- 出題の“型”:多くの年度で と一次関数(直線)が絡みます。問われるのは、座標計算、面積、そして平行四辺形や正方形といった図形の性質です。
- 合否の分岐点:点の座標を のように文字で置く思考が必須です。これができるかで、(2)以降の応用問題(例:「 となる の値を求めよ」(2024年))が解けるか決まります。
🔹 大問3:平面図形の“二段構えの罠”
ここは、多くの受験生が時間を奪われる最難関の図形問題です。
- 出題の“型”:「証明」と「計算」の二段構えです。
- 合否の分岐点:(2)の「合同」や「相似」の証明は、(3)を解くための“ヒント”に過ぎません。真の勝負は(3)の「線分の長さ」や「面積比」を求める計算です。
- 対策:指導では「証明して終わり」にはしません。2023年のように「相似比と三平方の定理を組み合わせて辺の長さを求める」までを セットとして演習します。
🔹 大問4:思考力を問う“ルールの読解”
旧試験(前期)の大問5の役割を引き継ぐ、思考力・発想力を問う問題です。
- 出題の“型”:「数の規則性(カレンダー、数列)」「特殊な定義(じゃんけんの点数、商と余り)」「動点とグラフ」など、毎年テーマが変わります。
- 合否の分岐点:知識量ではなく、「初見のルールを正確に読み解き、小さな数で実験し、法則を一般化(文字式化)する力」が問われます。
- 対策:2023年の「じゃんけん」や2025年の「円錐の転がり」のように、問題文の会話をヒントに立式する訓練を積みます。
❌ 「全国を北から順に」の落とし穴
この分析からわかるように、「全国の過去問を北から順に解く」ような手当たり次第の演習は、千葉県対策としては非効率です。
なぜなら、千葉県の大問3(図形)では「証明の後の複雑な面積比計算」が求められるのに、他県の過去問では「証明のみ」で終わるケースもあります。千葉県の大問2(関数)では「平行四辺形の座標計算」が頻出ですが、他県では「変化の割合」レベルで終わる場合もあるのです。
学習の「型」が違えば、得点力は伸び悩みます。
🏆 私たちの戦略:データで「不安」を「自信」に変える
Aくんの不安を解消し、合格に導くために、私たちはこの「分析データ(=共通言語)」を使います。
- 直前期の時間配分を最適化: 特に11月のテスト明けからは、作成した「出題単元一覧」に基づき学習を進め、生徒自身に正答率を記録させます。
- “特別プリント”で苦手と頻出を両立: 過去問データベースを使い、【大問1:計算・作図・確率】の基礎徹底プリントと、【大問3対策:相似比と面積比】や【大問2対策:座標と平行四辺形】といった千葉県の“型”に特化した応用プリントを個別に作成します。
- 学習範囲を戦略的に絞り込む: 数学が苦手な生徒には、早期から【大問1】と【大問2,3の(1)】を完璧に固める戦略をとります。入試が近づくほど、やるべきことは絞り込む。データは、その「絞り込み」の最強の武器となります。
入試が近づくと、生徒は「まだやっていないこと」を探し、解かなくてもよい難問に時間を奪われがちです。
「他塾の分析サイトなどでは『平均点が下がった』『計算を落とすな』と書かれていますが、それだけでは合格できません。なぜなら私たち指導者の役割は、データという地図を生徒と共有し、「君が今登っている山は、ちゃんと頂上(合格)に続いている」と示し続けることです。そのための分析と教材準備に全力を注ぎます。

